虫歯(カリエス)のX線分析について

                            佐藤 良夫(大阪大学歯学部中央研究室)

(はじめに)
 歯学部中研では透過型電子顕微鏡の他に日立S−2150型走査型電子顕微鏡が設置されており、一般の形態観察以外に元素分析が行えるように、堀場のX線分析装置(EMAX−2770型)の装置が附設されている。今回はこの装置を利用して、患者から得られた虫歯のX線分析を行って見たので報告する。

(方法)
 あらかじめ、得られた虫歯(親知らず)をアルコール等で洗浄し、充分に乾燥させた後、蒸着装置にかけ、5分間のイオンコーティングを行った。分析装置の測定条件は加速電圧20KV、プローブ電流0、2電子線入射角度70度、X線取り出し角度35度、ワーキングディスタンス15で行った。試料台にセットしたサンプルを通常の方法にてSEM観察し、エナメル質、象牙質の分析場所を決定した後、EMAX−2770型の分析装置からスペクトルを取り込み、自動分析にて、定性、定量を行った。

(結果)
 最初にカリエス境界線を80倍の弱拡像で撮影し、分析を行った。
 分析結果ではPの濃度が11,5wt%、Caの濃度が33、6wt%を示した。
 次にエナメル質の部分を500倍で観察し、分析を行った所、Pは12、57wt%、Caは32、67wt%の濃度であった。カリエスで露出した象牙質も同条件で観察、分析を行った結果、コラーゲン繊維の影響でピーク表示に乱れが生じるものの、Pは20、62 wt%、Caは37、69wt%と大差なかった。象牙質の強拡大像(1500倍)では象牙細管にターゲットを絞って分析したが、同様にバックグランドスペクトルに乱れが生じたものの、特に数値上の変化はなかった。以上の事から、歯の構成元素であるリン酸カルシュームのピーク表示は表層のエナメル質、象牙質の各層においても大差なく、全体としての物理的減少は見られたものの、当初、予想していた定量的な変化はなかった。カリエスの進行は歯根部のセメント質に及んでいなかったので、セメント質の分析は行わなかった。