Pasteurella pneumotropica その位置付けと対応
宮地 均、○鍵山直子、相澤慎一、中尾和貴
(理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(CDB)変異マウス開発チーム)
P.p.の国際的位置づけ
日本のCLASモニタリングセンターは検査項目をAからEまで5段階に区分し、P.p.などカテゴリーCに属すマ
イルドな病原体については、動物の感受性を勘案したうえで、検査項目に加えるかどうかを研究目的ごとに
各自判断すべきである、としている。ちなみに、TgやKOマウスを作出し、あるいは実験に用いる場合、遺伝
子改変が免疫力の低下を引き起こす可能性があればP.p.にも注意すべきだ、というのがICLASの見解であ
る。アメリカは、ウイルス中心のモニタリングである。ヨーロッパでは、実験動物学会連合FELASAが多種類
の微生物をリストしているが、検査対象に加えるかどうかは研究の目的を勘案して判断するように注釈して
いる。FELASAはカテゴリー分けをするかわりに、病原微生物の実験成績に及ぼす影響を論文にまとめてい
て、それを見る限り、P.p.をあまり重視していないようである。
CDBにおけるP.p.の位置づけ
マウスに感染することが知られている微生物を、コアバッテリ(カテゴリーAとBの微生物)、サプリメントバッ
テリ(ICLASのセット項目からコアバッテリを除いた微生物)およびスポットチェックに3区分した。コアバッテリ・
フリーが、CDBで作出・繁殖する遺伝子改変マウスの微生物学的プロファイルである。P.p.はサプリメントバ
ッテリのひとつで、モニタリング対象ではあるが陰性にはこだわらない。分与先には陰性、陽性を問わずきち
んと情報を提供する。感染事故が起きた場合、コアバッテリの微生物は速やかにクリーニングする。すべて
のラインについて、200個以上の胚を凍結保存しているので、1ヵ月以内にラインを再構築、3ヶ月以内に
F1が得られる。サプリメントバッテリの感染事故は感染マウスを隔離し、研究者と相談しながらクリーニング
のタイミングを探る。スポット検査項目による汚染は、必要と判断された場合のみクリーニングを行う。
CDBでのP.p.感染マウスの取り扱い
P.p.がサプリメントバッテリであることからクリーニングではなく隔離の策を選び、汚染飼育室を2年以上に
わたり維持している。交配などで動物がケージ間を移動するため、飼育室単位の常時隔離が基本である。
動物棟の入り口と、研究者ごとに指定された飼育室前室の入り口に非接触型のカードリーダーを設けている
。P.p.汚染の3飼育室から退出するときは、前室で滅菌済みの衣類一式に着替える。使用済み飼育器材や
汚物はダーティー側の作業廊下で台車にのせ、カバーをかけて直接オートクレーブに搬入する。施設利用
者には、導入研修と定期研修の受講を義務付け、導入研修を受けない者は実験者あるいは飼育者として登
録されない。登録者だけに飼育室へのアクセス権が与えられ、カードキーが動物施設を管理する変異マウ
ス開発チームから交付される。
CDBのポリシー
マウスの授受は原則として凍結胚で行うのが望ましい。マウスを生体で受け取る場合には、体外受精と胚
移植でクリーニングする。クリーニングは国内の信頼できるブリーダーのマウスを除き、すべてを対象に行う
。外部への分与も原則として凍結胚で行う。生体を希望する先にはモニタリングの結果を開示し、トラブル防
止に努めている。マウスの授受によってもたらされる感染症の発生は、研究開発の進捗に致命的なダメー
ジをもたらすだけでなく、実験動物として生まれたマウスに、使命を全うする前の安楽死処置という不本意な
最期を迎えさせる。このような悲劇を未然に防ぐ責任は、授受双方に等しく存在するとわれわれは考える。