Pasturella pneumotropicaの飼育管理上の位置づけとその同定法
高倉 彰
((財)実験動物中央研究所ICLASモニタリングセンター)
Pasturella pneumotropica(以下Pp)は、わが国のマウス・ラット実験動物施設から高率に検出される微生
物のひとつである。特にマウス施設では検出率が高く、モニタリングセンターにおける検査結果では、ここ数
年15%前後の検出率にて推移している。さて近年このPpの動物施設管理における取り扱いに関し、いくつ
かの問題点が指摘されている。そのひとつは、Ppのマウス・ラットに対する病原性であり、そしてそれを考慮
した飼育施設管理上における位置づけであり、そして検査機関、検査法により結果が異なることがあると言
われるPpの同定法に関する問題である。まず前者について考えて見たい。モニタリングセンターの検査結果
では、ここ数年Ppの汚染率はマウス施設で15%前後、ラット施設で5%前後にて推移している。これら汚染
施設由来の免疫機能が正常な動物(正常動物)の解剖所見では、Pp感染が原因であろうと思われる皮下
膿瘍は散見されることがあるものの、Ppが原因と思われる病変は肺病変を含め皆無である。これはPpが正
常動物に対しては病原性が無いことを示す事例であると言える。一方免疫不全動物に対する病原性は、モ
ニタリングセンターや東京医大の川本らが実施した免疫不全マウスを用いた感染実験結果により、系統によ
り病変、発病時期に差はあるものの、実験感染動物では確実に肺病変が確認されている。以上よりPpの病
原性を考えてみると、正常動物に対しては病原性が無く、病原性別カテゴリーDの日和見病原体と同等であ
ると言える。一方免疫不全動物に対しては、カテゴリーBと同等の病原性を有すると考えられ、Ppの飼育管
理上の位置づけは、正常動物と免疫不全動物とでは分けて考える必要があると言える。
つぎに同定法の混乱の原因として、まずPpの生物型が挙げられる。PpにはJawets型とHeyl型の2種類の
生物型があり、その両者の生物学的性状には大きな差が認められる。また同じJawets型でも菌株間で性状
に差があり、このことがさらに混乱に拍車をかけている。一方検査法においては、過去と現在の生化学的性
状の不一致、市販同定キット間の結果の不一致、使用プライマーの違いによるPCR結の不一致などが混乱
の原因となっている。そこで同定法に関しては、Ppの同定法を標準化することおよび病原性を再検討するこ
とを目的に、2001年に実験動物生産施設、ユーザーそして微生物検査受託機関計9機関にて設立された「
Ppに関するワーキンググループ」がまとめた現時点におけるPpの標準的な同定法を本シンポジウムにて紹
介させていただき、これに対するご意見を拝聴できればと考える。