抗ウイルス作用を持つ新素材 -ドロマイト-
鳥取大学農学部獣医学科獣医微生物学教室
大槻公一
微生物作用を持つ物質について
現在、非常に多くの分野に、いわゆる抗菌性グッズが汎用されている。消しゴム、あるいは自動車のハンドルのよ
うな抗菌性を有す必要性のない物までに使用されている。しかし、抗菌性のある物質が現在ほど必要とされている
時代はなかった。たとえば、BSE騒ぎ以来、食品衛生にお関する国民の意識は際立って向上している。一方、中国
を中心に大きな国際問題となったSARSの発生は、国内侵入への侵入は認められなかったが、国民の一般的な活
動に大きな影響を与えた。また、79年ぶりに国内発生の認められた高病原性鳥インフルエンザの脅威の大きさは
記憶に新たなところである。このような現在、私たちの身近な環境の微生物学的安全性、すなわち環境衛生に対す
る認識も一段と高まっている。
このことは、抗菌、抗ウイルス作用を持つ抗微生物性物質の有用性、必要性が国民に広く認識された。勝れた抗
微生物性を持つ物質の開発は大きな社会的ニーズを持つ課題になっていることは明瞭である。
抗菌性を持つ物質の具備すべき条件
抗菌性を持つ物質の抗菌作用には、細菌を殺滅させる作用、および細菌などの増殖を抑制する作用がある。微生
物もヒト同様に生物の一種であることを考慮するならば、ある物質が微生物に対する殺滅作用が非常に強くても、ヒ
トへの安全性に問題が残る。また、長時間ヒトなどに接触すると中毒などの副作用を起こす可能性のある物質も好
ましいとはいえない。一方、現在使用されている多くのいわゆる抗菌性グッズに使用されている抗菌性物質の抗菌
作用はあまり強くなく、抗菌作用が発現するためには長時間を必要とする。
したがって、抗菌性を持つが、生物に対する毒性の極めて弱い抗菌性を持つという矛盾した性質を具備する物質
が最も好ましいと考える。
天然鉱物ドロマイトを加工した新素材の抗菌性
種々検討した結果、以下のような性状を持つことが認められた。
1.本素材の主たる素材は自然界に無限に存在するカルシウムとマグネシウムである。したがって、元来極めて
高い安全性を有する物質を素材としているといえる。
2.純品は非常に細かな粉状をなすが、この純品の抗菌力は極めて強い。例えば、水に混合した場合、ほとんど
瞬時に大腸菌、サルモネラなどの細菌の増殖力を消失させる。
3.殺菌のメカニズムは、不明であるが、純品の高いpH(純品を混合した液体は pH 10以上)と他の作用が考えら
れるが、いまだ特定できていない。現在素材側からあるいは細菌側から検討中である
4.しかし、純品を他の物質に混ぜ合わせて形状を変えると、抗菌力は安定性を欠き、減ずる場合が認められる。
5.水などの溶液中でデキシノンが抗菌性を発揮するためには、本品が徐々に水の中に解け出す必要がある。し
たがって、本品を、水を多く使用する作業する際に着用する、作業着、前掛け、手袋などに本品を混合しても、デ
キシノンは水などに徐々に溶出して、これらの物品から量を経時的に減じて行くため、抗菌力を長時間保つこと
は困難である可能性がある。
6.一方、食品加工場あるいは病院などの環境下で使用される場合には、有用性が高いのではないかと予測され
る。特に、MRSA、VREなど院内感染細菌の増殖抑制に有効であることが期待できる。
新素材の抗ウイルス作用
私たちの研究から、本新素材は強力な殺ウイルス効果を持つことが分かってきた。すなわち、短時間作用させた
だけで、ウイルスの感染力を高率に失わせることを実験的に確かめたのである。
1.日本国内では、2003年にSARS患者は発見されなかったし、現在でも発見されていない。本ウイルスの取扱
いが極めて厳格であり、そのため、このウイルスを入手することは現在では困難であることから、SARSウイルス
と近縁関係にある鳥のコロナウイルス(鶏伝染性気管支炎ウイルス)に対する作用を私たちは調べた。その結果
、0.6%濃度に希釈したこの物質にウイルスを混合させ、4℃、10分間置いたところ、107.0EID50のウイルス感染価
が、101.0
EID50以下に大幅に低下した。
SARSの確実な診断法はまだ確立されていない。SARSの治療薬あるいは効果的なSARSワクチンの開発ま
で数年かかる見通しという現実がある。しかし、本病は世界的に再び流行の起きることが懸念されている。私たち
は、空気中に漂うSARSウイルスを効率良く殺滅して、ウイルスに感染することを防止する方法を作り上げること
がまず重要であると考えたので、以上の実験を行った。
2.発病初期においては、SARSとインフルエンザを臨床症状から区別することが難しい。次の冬には、両方の疾
病が同時に流行することも心配される。そこで、ホンコン型インフルエンザウイルスと鳥インフルエンザウイルス、
一般的な風邪の原因ウイルスであるパラインフルエンザウイルスと近縁のニューカッスル病ウイルスに対しても
、この物質が強い殺滅作用を持つことも確かめた。
この物質をスプレーしたガーゼを、4℃、15分間ウイルス液に漬けたところ、前記ウイルスの感染価は108.5EID50
から102.0EID50よりも低くなることを認めた。このことから、もし、SARSウイルスの国内への侵入があり、流行が起
きても、この物質をしみ込ませたマスクを着用することにより、ウイルスの感染を免れることが期待できる。また、SA
RSとは別にインフルエンザ流行時のこのマスク着用はヒトのみならず鳥インフルエンザウイルス感染防止にも有
効に働くことが期待される。病院関連では有用性を発揮できる可能性のある素材であると考えられる。そのほかの
公共の場所でも広く使い得る。