弱酸性水(ハイポックウォーター)の動物実験施設における有効性:消毒及び消臭効果
三浦隆1),権田辰夫1),杉原直佳2),有本哲也2)
島根大学総合科学研究支援センター実験動物分野1), 高塚薬品2)
動物実験施設において飼育環境をSPF状態に保つため,日常作業として飼育器材の滅菌作業を始め飼育室内の消毒は重要な作業である。本学の実験動物分野では飼育室内は毎週3回,汚物処理場は毎日4種類の消毒薬(ピューラックス,キンサール,イセフォール,ヂアミトール)で,耐性菌が出現しないように交互に消毒を行っている。また汚物処理場では汚物の臭気が日常的に発生するが,出来るだけ頻繁に容器を密封処理することにより臭気の軽減に努めているが,週末や長期の連休中の臭気がしばしば問題となっている。そこで今回,安全性の高さから食品業界で使用されている弱酸性水のハイポックウォーター(以下HW)を用いて,飼育室内及び洗浄室の消毒効果或いは消臭効果を成分組成が同一であるピューラックスと比較検討したので報告する。
「方法」
HWは塩素濃度(50ppm)に調整した液を使用し,対照液はピューラックスを200倍希釈した塩素濃度(120−150ppm)液を使用した。飼育室の構造は天井から給気し,床上60cmで排気する開放型飼育室内で,N社製クリーンラックで20ヶのラットケージ(合計60匹)を飼育する部屋の隅2箇所において,消毒の前,消毒後1時間,3時間,6時間,18時間後の細菌数をスタンプ培地を使用して測定した。洗浄室は空調設備は無いが,天井が6−7mと高く一部外気と交通しているライトコートにおいて,汚物処理器の1.5m付近の床上30cmの棚上2箇所及び隅2箇所の4箇所から細菌数をスタンプ培地で測定した。薬液の噴霧は丸山製作所社製のMS027Mを用いて,それぞれの薬液を飼育室内は2リットル,汚物処理場は4リットル噴霧した。臭気測定は汚物処理器にラット60匹の汚物床敷を入れた1時間後及びHW噴霧(約50cc)直後(5−10分後),1時間後,3時間後,6時間後,18時間後のアンモニア濃度を北川式アンモニアガス検知管を用いて測定した。
「結果」
飼育室内の細菌数の変化は対照のPL液消毒前が平均70コロニー,消毒1時間後が10,3時間後が20,6時間後が60,22時間後80コロニーであった。HW実験群では対照群とほぼ同様の細菌コロニー数か或いは若干少なめの細菌数を示していた。洗浄室の細菌数の変化は対照のPL液消毒前が汚物処理器近くで平均10コロニー消毒後1時間が1.5,3時間後3,6時間後4,18時間後9,24時間後11であった。HW群では飼育室と同様に,対照群とほぼ同様の細菌コロニー数か或いは若干少なめの細菌数を示していた。臭気の軽減作用を測定した結果は,床敷汚物を処理機に投入後約1時間で100−200ppm測定されたアンモニアガスがHW噴霧直後は約半分の50−100ppmまで半減し,3時間,6時間後には100−150ppmまで上昇傾向を示した。対照のPL液では20−30ppm位の軽度消臭効果が見られるのみであった。
「結語」
以上の結果から,HWは消毒殺菌作用及び消臭作用を有することにより動物実験施設における有用な衛生資材になると考えられた。